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「テメェ何しに来やがった?」
ボクシング部員が教室に入って来た男に向かって拳を構える。
一瞬にして教室の中に殺気が充満する。
「空手部か?」
そう問う主将が殺気立つ部員達を左手で制する、彼らはしぶしぶそれに従う。
(この余裕・・・やはり主将だけのことはあるわね)
主将の統率力に感心しながらも和美は部員達の態度で空手部とボクシング部の対立を確信した。
(この状況を利用する手はないだろうか・・・)
「と、とにかく来て下さい、大変なんです!!」
その言葉を聞いて主将は不敵な笑みを浮かべる。
「さあて、どうするかなあ?」
顎に手を当て考える仕草をしている。
「オレ達は正義の味方って訳じゃない、空手部がどうなろうと構わないんだぜ」
「助けてください!お願いします!」
その男は主将にすがりつき懇願する、C組の生徒達は突然の展開にざわついている。
「分かった分かった、行ってやるよ!だがこの貸しは高くつくぜ」
男の態度に自尊心を満足させたのだろう、すがりついてくるその男を振り払った。
「いくぜ、お前ら!!」
部員達を制した時と同じく左手を挙げて号令する。
「そうだ、そこの新聞部も連れて来い!」
主将はそう言って和美を指差した。
(うわッ!なんでアタシがっ!?)
これ以上無い程思いっきり不満そうな顔をする和美、そしてそれを見て満足そうに笑う主将。
良くも悪くも目をつけられた事には違いない。
(C組のみんなに危害が加えられなかっただけでもマシね)
そしてなによりこの事件をど真ん中から追い掛ける事が出来る、その事に軽い興奮を覚えていた。
和美を連れたボクシング部員達が見たD組の教室の光景は酷いものだった。
椅子や机は倒れ、そこら中に教科書やノートが転がっている。
黒板は傾きゴミ箱からは中身が撒き散っている。
「まさに台風一過ってヤツだな」
主将が感想を述べる。
(オイオイ、その使い方間違ってない?)
和美は思いはしたが口に出して得する事はないので黙っておく。
(いつか恥をかくがいいわ!)
教室の中には空手部員が倒れている、その数あわせて7人。
腹や顔などを押さえうめき声を上げている。
どの部員も自力では動けないような状態だ。
(さっき聞いた人の争う音ってこれだったんだ・・・)
運動部が一年生を相手に暴れているものだと思っていたが実際はその逆。
この教室に来た運動部がD組の生徒達に襲われたのだろう。
新聞部の部長も言っていたが、こんな一年生達の存在がこの学園抗争をますます拡大させていくのだろう。
(それにしても空手部を相手にこれだけの力をみせる一年生達、何者なのか調べる必要があるわね)
「ねえちょっと聞きたいんだけど、空手部って結構強いの?」
側に立つボクシング部員に尋ねてみる。
「そんな事聞いてどうするんだ?」
「これをやった連中がどのくらい強いのか、空手部の実力から推測できるじゃないの?」
それを聞いた主将は和美の意見に感心したようだ。
「なるほど・・・するとかなりの腕をもった連中という事になる、オレはこいつらが空手の対抗試合で負けるところを見た事がないからな」
もっとも空手部などオレの敵ではないがナ、と主将は付け加えるのを忘れない。
和美が閉口していると主将が一番近くに倒れている空手部員に呼び掛ける。
「おい!今日はお前んトコの大将は来てないのか?」
顔を歪めながら男は僅かに頷く。
「それにしてもこれは・・・」
そう言った主将のその表情からは感情が読めなかった。
同行してきた空手部員の方を向いて言った。
「教えろよ、ここで何があった?どうせお前らも1年を教育してたんだろうが?」
問われた男は頼りなげに答えた。
「後ろの方で居眠りをしていた男がいきなり暴れ出して、オレはその男に胸倉を掴まれ黒板叩きつけられてそのまま・・・」
気を失った訳か、と主将が無表情で付け加える。
「黒板の下で意識を取り戻した後、その男が仲間と戦っている隙を突いて・・・」
「隣りのC組に助けを求めてきたという訳ね・・・」
今度は和美が言葉を付け足した。
「とにかくすごい力だった、こっちの技や武器など全く受けつけないし・・・」
その時の様子を思い出したのか、それとも逃げ出した自分を後悔しているのか、頭を抱えてうずくまってしまった。
「ちょっと待って、その様子だと7人もの空手部を倒したのがたった一人の・・・」
和美が言葉を最後まで続ける必要は無かった。
この場にいた誰もがその一年生の凄さを感じていた。
あの主将までもが、である。
C組に現われた空手部。
屈強な彼らを薙ぎ倒した謎の一年、その男が空手部員に発した最初の一言はこんな言葉だった。
「ウルサイのォ〜〜〜〜」
教室の真ん中、後方の席からそんな声があがる。
「少し静かにしてもらえんか?」
教室のあちらこちらに立ち威圧する空手部員に対してそう言い放つ。
学帽を目深に被り、腕組みをしている。
木製の棚に浅く腰掛けている、既成の椅子ではその巨体を支えられないのだろう。
そして両足を机の上に組み上げている。
見るからに只者ではない雰囲気を醸し出している。
「折角ワシが気持ち良く寝ておる時に・・・」
口上を続けるまでも無く空手部員から当然の反応が返ってくる。
「生意気な1年め!」
「叩きのめしてやる!」
「オレ達の力を思い知らせてやるぜ!!」
どこから持ってきたのか空手部のクセに竹刀や鉄パイプ、スチールチェアを手にしている。
「叩きのめすじゃと?」
その言葉を聞いて腕組みを解く。
目深に被られた学帽、そこから覗く目がカッと見開かれた。
両足を掛けていた机を蹴倒して立ち上がる。
その巨体にたじろぐ空手部員を見て、男の口元から笑みがこぼれる。
「このワシを?叩きのめすだと?」
「・・・学園台風と呼ばれる、このワシをか!!!!!!」
教室の中央付近で大見得を切る学園台風こと北島剛・・・そして、そんな彼を冷ややかに見つめる眼差しがあった。
紅静波である。
(続く)
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